刑務所から逃げ出したらどんな罪? 単純逃走罪と加重逃走罪について

時々、刑務所や拘置所、警察署などから逃走する犯人がいますが、多くの場合は罪が加重されます。では、どのような罪、どれくらいの刑の重さになるのでしょうか。解説します。

​単純逃走罪とは、裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、1年以下の懲役に処せられます。刑法第97条)。加重逃走罪と区別する目的で、単純逃走罪と呼ばれています


裁判の執行により拘禁とは、裁判で確定判決を受けて服役している者、死刑が確定して、刑事施設に収監されている者をいいます。また、罰金又は科料を完納することができないために労役場に留置されている者をいいます。
※罰金は1万円以上、科料は1万円未満。

拘禁された未決の者とは、勾留状の執行のために拘禁されている者をいいます。尚、逮捕状の執行のために拘禁されている者は、「裁判の執行により」拘禁された者ではないので、単純逃走罪の主体とはならないとするのが通説的見解であるとされています。(要するに逮捕されて勾留状が発行されるまでの間に逃走しても罪にはならないということ。このことについては下で解説。※暴行や脅迫、器具の損壊などを伴わなかった場合のみ。)

尚、未遂も処罰されます。
 


​​​加重逃走罪とは?

裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀して、逃走したときは、3か月以上5年以下の懲役に処せられます(刑法第98条)。

本罪の主体は単純逃走罪の主体(裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者)のほか「勾引状の執行を受けた者」も含まれます。

逮捕状により逮捕された者は含みますが(東京高判昭和33年7月19日高刑集11巻6号347頁)、現行犯逮捕や緊急逮捕の場合には逮捕状が発行されていないので本条の主体から除かれるとするのが通説的見解とされています。(要するに、令状無しに逮捕された場合、勾留状が発行されるまでの間に暴行や脅迫を伴って逃走しても本罪は適用されないということです。ただ、暴行や脅迫で逮捕されます。)

本罪の行為は、 (1) 拘禁場若しくは拘束のための器具の損壊、 (2) 暴行若しくは脅迫、 (3) 二人以上での通謀のいずれかの方法・手段により逃走することです。

  • 拘禁場若しくは拘束のための器具の損壊
    • 損壊とは、物理的損壊を意味するから、手錠及び捕縄を外しただけでは損壊にあたらないとされています(広島高判昭和31年12月25日高刑集9巻12号1336頁)。
  • 暴行若しくは脅迫
    • 暴行とは、保護法益から考えて公務執行妨害と同じく、間接暴行でもよいとされる(広義の暴行)。暴行・脅迫は看守に対してなされることを要します。
  • 二人以上での通謀

尚、未遂も処罰されます。




          

​​​逃走援助罪                             

​逃走を援助した場合も罪に問われます。法令により拘禁された者を逃走させる目的で、器具を提供し、その他逃走を容易にすべき行為をした者は、3年以下の懲役に処せられます。 また、法令により拘禁された者を逃走させる目的で、暴行又は脅迫をした者は、3か月以上5年以下の懲役に処せられます。

本罪の行為は、器具の提供その他逃走を容易にすべき行為をすること又は暴行・脅迫です。

尚、未遂も処罰されます。

​​​捕まってもすぐに逃げれば逃走罪は適用されない?

結論から言いますと、勾留手続きを経る前であれば適用されません。尚、暴行や脅迫を伴えば、もちろん罪は加重されます。

単に現行犯逮捕されただけの場合ですと、「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」に該当しません。そのため、逃走しても「単純逃走罪」に問われることはありません。

通常は、逮捕されると、48時間以内に検察官に送致する手続きが取られ、検察官は、被疑者を受け取った時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求することになります。そのため、逮捕されて72時間以内(3日以内)に逃げれば、逃走罪は適用されないということです。

しかし、裁判で印象が悪くなるのは必至です。逃走すれば全国で指名手配を受け、もはや逃げ切るのは困難です。罪が加重されなくても、間違いなく裁判で不利です。 

まあ、とにかく「魔が差した」「カッとなった」など、その一時のことだけでも人生に大きな影響を及ぼします。当たり前のことですが、そもそも捕まることはしないように(私自身も含めて)しましょう。